Children’s Rights and ESG

子どもの権利とESG

2026年7月15日

国連総会が1989年に採択した子どもの権利に関する条約(以下、「子どもの権利条約」)は、今日、アメリカを除く世界中のすべての国が批准・加入し、締約国となっている。日本も、1994年に同条約を批准した。また、国連総会は、2000年に、武力紛争における子どもの関与に関する選択議定書と、子ども売買・児童買春および児童ポルノに関する選択議定書を採択し、これら2つの選択議定書もそれぞれ173ヵ国、178ヵ国が締約国となっている。日本も2004年、2005年にそれぞれ批准した。

子どもの権利条約および選択議定書において保障される子どもの権利を実現する責任は国家にある。しかし、企業もその活動を通じて、子どもの権利に大きな影響を及ぼしている。締約国による実施を監視するために子どもの権利条約によって設置された子どもの権利委員会(18人の個人専門家により構成される)は、ビジネス・セクターが子どもの権利に及ぼす影響が増大してきたとの認識を背景に、2013年に、一「企業セクターが子どもの権利に及ぼす影響に関する国家の義務」についての一般的意見16を採択した。同一般的意見は、子どもが、消費者として、合法的に就労する被用者として、将来の被用者および企業のリーダーとして、また、企業が操業している地域および環境の構成員として、企業活動の関係者でもあることを反映して、企業の活動が子どもの権利条約および2つの選択議定書によって保障される子どもの権利を実現するための国家の義務を果たすために国家が取るべき措置を明らかにすることを目的として採択された。

子どもの権利委員会は、同一般的意見の採択後、各締約国の定期報告書を審査し、総括所見を採択して条約の効果的な実施のために具体的な勧告を行う際に、子どもの権利とビジネス・セクターという項目の下で、労働や環境等に関する国際基準を企業が遵守すること等のために締約国が取るべき措置を勧告してきた。さらに、子どもの権利委員会が採択した、「デジタル環境との関連における子どもの権利」に関する一般的意見25(2021年)、および、「特に気候変動に焦点を当てた子どもの権利と環境」に関する一般的意見26(2023年) は、これらの分野における企業活動の子どもの権利への多大な影響を反映して、ビジネス活動に対して国家が取るべき措置を詳しく述べている。

The flag of UNICEF

しかしながら、一般的意見は、あくまで国家が取るべき措置を述べたものであり、その普及対象には企業も含まれてはいるものの、普及を行うべき主体も国家であり、実際に、世界中の各締約国において、一般的意見が企業に普及され、企業活動に取り入れられているかの実態は不明である。これに対し、コフィー・ アナン国連事務総長が1999年に提唱したグローバル・コンパクトは、企業に対し、「人権」、「労働」、「環境」、「腐敗防止」 に関する10原則を実践するよう要請し、直接企業に働きかけ、企業のコミットメントを求めるものである。また、国連が2011年に採択した、「ビジネスと 人権に関する指導原則」は、3つの柱の1つとして、人権を尊重する企業の責任を明らかにしており、国別行動計画の策定等を通じて、特に大企業の活動に影響を与えるようになっている。これらの一般的な人権(すべての人を対象とする人権)と企業活動に関する国連の取り組みは、子どもの権利の観点からも重要であるが、子どもの権利との関連が十分に意識されておらず、グローバル・サプライチェーンにおける児童労働の防止という特定の問題に関心が向きがちである。

この点で、2012年に、ユニセフが、国連グローバル・コンパクト、セーブ・ザ・チルドレンと共同で策定・発表した、「子どもの権利とビジネス原則」(CRBP: Children’s Rights and Business Principles) は、上記のビジネスと人権に関する既存の基準や取り組みを踏まえて、子どもの権利条約その他の国際人権文書によって確立された子どもの権利の観点から、企業活動における子どもの権利に関する包括的な枠組みを10の原則で示したものである。同原則は、企業が子どもの権利を尊重し推進するために職場、市場や地域社会で行うことのできる様々な活動を示しており、児童労働の問題だけでなく、健康や教育、栄養、環境など多くの場面で、世界の子どもたちが直面している様々な問題の改善に資する製品やサービスの開発・提供や、マーケティング・広告活動などを通じ、企業が、積極的に「子どもの権利」を守り、尊重し、推進することを目指している。また、従業員のワーク・ライフ・バランスへの配慮を通じ、適切な親子関係・子育て環境を確保することも、「子どもの権利」の推進に資する活動として捉えている。同原則は、実際、子どもの権利を尊重する企業の責任と子どもの権利を推進する機会は、すべての企業にとって、職場・市場・地域社会と環境において関わってくるが、ステークホルダーとして見落とされがちな子どもとの関係について、企業にとってどのような機会があるのかということを実践的に示すものである。

近年の子どもの権利とESGに関する国際および国内注目すべき取り組み

まず、国際レベルにおいて、企業が子どもの権利を活動に取り込むための具体的なツールが開発されていることである。

その1つは、ユニセフが開発・発表した、デジタル環境との関係における子どもの権利影響評価(CRIA: Child Rights Impact Assessment)のためのD-CRIAである。これは、デジタル環境との関連において、企業の製品、サービス、活動が、子どもの権利条約その他の人権文書に定められた子どもの権利にどのように影響を与えるかを評価し、負の影響を緩和するための適切な行動の決定を、国連ビジネスと人権指導原則に基づく手法を用いて行うために開発されたツールである。CRIAは、子どもの権利条約3条の子どもの最善の利益原則の包括的な実施のために、国家が法律や政策、計画の策定・実行に際し求められる措置であるが、子どもの権利を尊重する企業の責任の一環として、企業活動においても求められる。用語は異なるが、考え方としては、人権デュー・ディリジェンスの子ども人権版と捉えることができるだろう。重要なことは、D-CRIAは、いわゆるテクノロジー関連企業以外の企業も、また、子どもをターゲットとしていない企業も用いるべきであると強調されている点である。実際、大人向けに作られたデジタル環境にも子どもたちは存在しているし、大人によるデジタル製品やサービスの使い方によって、オンライン上だけでなく、オフラインの環境で、家庭内で、子どもの権利が影響を受けている。D-CRIAは、デジタル環境の分野に特化した企業がCRIAを行うためのツールであるが、あらゆる企業が、デジタルに直接関連した活動を行っていない場合であっても、間接的に、あるいは潜在的に、職場、市場、地域社会と環境という、子どもの権利とビジネス原則が示した3つの領域を通じて、子どもの権利に影響を及ぼしうることを理解・認識する契機となりうる。そして、このことは、より広範な子どもの権利への企業活動の影響を認識し、取り組むことへとつながることが期待される。もう1つの国際的な動きとして、本年、国際標準化機構(ISO: International Organization for Standardization)が、子どもの権利マネジメントに関する委員会を設置したことが注目される 。ISO認証という企業にとってなじみのある具体的なツールの中に子どもの権利という分野が構築されることによって、さらに企業による子どもの権利の実践が浸透することが期待される。

一方、日本国内においても、日本総合研究所(以下、日本総研)が、2024年に「子どもの権利とビジネス人権研究会」を立ち上げ、子どもコミッションイニシアティブ構想に基づく「子どもESGレポート」を発表する等の興味深い取り組みが見られる。日本総研は、研究会設立の背景として、こども基本法では、企業に対し、従業員の雇用環境についてこども基本法の基本理念にのっとって整備することを求めている一方で、企業が提供する商品・サービスについては、何ら言及しておらず、子どもと接触することが多いセクターから抽出した企業を対象に日本総研が調査を行った「子どもESG調査」および個別の聞き取り調査では、子どもの権利の尊重を意識して本業のビジネスに取り入れる企業は限定的であったことを挙げている。日本総研は、同研究会の活動を通じて、子どもの権利とビジネスの接点を明らかにしていくとしている。また、日本総研が子どもの権利とビジネスの接点を探るために行っている「子どもESG調査」とその結果そ「子どもESGレポート」 として発表するという意欲的な取り組みは、子どもの権利の尊重が、ビジネスを進化させる可能性を提示しており、興味深い。

今年は、国連「ビジネスと人権に関する指導原則」採択から15年の節目である。日本では、「子どもの権利とビジネス原則」採択の10年後にあたる2023年、こども基本法が施行され、こども家庭庁が発足した。日本国内における、ビジネスと人権に関するこれまでの議論や取り組みに、上記に紹介した国際的なツールの開発や、国内における興味深い意欲的な研究の成果を踏まえて、こども家庭庁も役割を担い、子どもの人権の視点を明確にした議論や取り組みが進むことを期待する。

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