Can we pass down the beauty of the earth to the next generation?
Part 2

はたして僕たちは、この地球を美しいまま子共たちに引き継ぐことができるだろうか

第2回

2024年7月28日

政権交代のたびに大きく揺れる米国のSDGs

米国は早くも1990年に世界初のSRI (Social Responsibility Investment)インデックスDomini 400を立ち上げるなど、ESG推進の大きなけん引力になってきた。しかしブッシュ共和党政権になると、世界192カ国が締約した京都議定書の批准を拒否したり、オバマ民主党政権下で批准したパリ協定から、トランプ共和党政権で離脱し、バイデン民主党で復帰するなど、政権が変わるたびに、そのSDGs・ESG取組み姿勢は、まるで振り子のように大きく左右に振れている。

米国で1974年に制定された企業年金制度や福利厚生制度の設計や運営を統一的に規定する連邦法「従業員退職所得保障法(通称エリサ法)」は、投資ファンドの運用受託者は投資家の利益を最大化するためにのみ行動し、他の目的で資金を運用してはならない、と定めている。社会や環境に配慮した経営を行う企業に投資をするESG投資は、エリサ法に違反しないか、政権が替わるたびにその法解釈も二転三転している。(Fig.3)

Fig.3 政権によって大きく変るエリサ法の解釈

出典:野村資本市場研究所資料に筆者が2021年を追記

元々米共和党はESGには消極的であったが、ESG投資を民主党の政策批判の道具とするようになり、その「ESG叩き」は年々激しさを増している。2023年にはユタ州やテキサス州など共和党が州知事であったり、州議会の過半数を共和党が占める州(レッド・ステートと呼ばれる)の多くが、ESG投資を行っている金融機関を州業務から排除する州法案を可決した。またESG投資に熱心な金融機関のトップは度々州議会の公聴会に呼び出されて詰問されている。こうした激しい「ESG叩き」に耐えかねて、ESG投資で全米第2位だったバンガード社はESG投資を断念した。

世界のトップクラスの科学者400人からなる調査研究機関である国連IPCCは、2001年の第三次評価報告書で「There is new and stronger evidence that most of the warming observed over the last 50 years is attributable to human activities. 」として近年の気候変動は人間の活動が原因と断定して以来、科学的データに基づいて20年以上毎年世界に警鐘を鳴らし続けている。しかし今年の大統領選挙を前にして、トランプ氏とその熱狂的支持者はいまだに「米国の経済成長に嫉妬し妨害しようとする連中の捏造したフェイク情報」と決めつけて一顧だにしない。
IPCCの出した結論を全面否定する科学的・論理的根拠は何も示さず、議論にも応じずただ口汚い言葉でESG投資を行う金融機関を罵倒することを繰り返している。米共和党はかつての共和党とは異なり、今は「トランプ党」とも呼ぶべき、極めて特異な存在になってしまっている。

日本のSDGs評価が悪い理由

2030年をゴールとしたSDGsは余すところ後6年だが、国連のSDSN(Sustainable Development Solutions Network)が毎年、達成状況を国別に評価し順位付けして公表している。日本は2017年に11位であったが、年々順位を下げ2023年には21位にまで落ちてクロアチア・ラトビア・スペイン・ポルトガルなどの後塵を拝している。

日本が「達成済み」との最高評価を受けたのは、SDGsの目標でいうと、4番「質の高い教育をみんなに」と9番「産業と技術革新の基盤をつくろう」の2項目だけだった。一方「深刻な課題がある」と最低評価を受けたのは、5番「ジェンダーの平等」、12番「つくる責任・つかう責任」、13番「気候変動に具体策を」、14番「海の豊かさを守ろう」、15番「陸の豊かさも守ろう」の5つだった。

ジェンダーの平等については「国会における女性議員比率」と、「女性管理職比率」の低さ、更に「男女の賃金格差」の大きさが、日本は国際的に見ても突出して悪いと指摘されている。

国会における女性議員比率

日本は政策・方針決定過程への女性の参画の拡大などを掲げて女性の国会議員を増やすべく「男女共同参画社会基本法」が平成11年(1999年)に施行されたが、以来今日まで25年間ほとんど成果は出ていない。現在も女性議員は1割にも満たない状態のままだ。(Fig.4)

Fig.4 衆議院の女性比率推移

前回の衆議院総選挙における各党候補者と当選者を見ると、自民党は336人の立候補者の内、女性は33人で、内20人が当選している。公明党も53人の立候補者の内、女性は4人のみで、その4人全員が当選している。与党は女性候補者を立てる際、当選可能性の高い女性だけを厳選している傾向が見て取れる。一方野党は、社民党が15人中9人と男性より多い人数の女性候補を立てたが女性陣は全員落選。立憲民主党など他の野党はいずれも女性立候補者は1割から多くても3割程度に留まっており、しかも当選比率は極めて低い。こうした傾向から与野党合計でも立候補者に占める女性比率は17.7%と2割に届かず、当選者に至っては僅か9.68%と1割以下という結果に留まっており、20年前の状態からほとんど改善していない。国会議員選挙に関しては、各党幹部のみならず、有権者の側の女性候補者の政治手腕に対する見方にも諸外国と大きな開きがあることがわかる。(Fig.5)

Fig.5 2021年第49回衆議院議員総選挙男女比率

出典:衆議院議員総選挙結果に基づき筆者集計

日本は上下両院合わせても女性議員は16.0%に過ぎず、これは世界150カ国中148位という低さで、先進国中最下位。女性差別でしばしば問題となっているアフガニスタンやサウジアラビアよりはるかに低く、ロシア、北朝鮮に比べても1ポイント以上低い。諸外国から見れば、独裁者に権力や警察力で押さえつけられている訳でもない、れっきとした民主主義国家である日本の、この国会議員の状況は異常に見えるし、25年以上にわたって一向に改善しないその状況に対しさほど問題として不満の声を挙げない有権者の感覚や関心の低さも異様に映るようだ。(Fig.6)

Fig.6 女性国会議員比率国際比較(上下両院合計)2024年2月調べ

出典・参照:IPU(Inter-Parliamentary Union)Global Note

女性管理職比率と男女の賃金格差

企業や自治体の女性管理職の比率の低さも、SDSNの評価を下げている要因のひとつだ。ILO(国際労働機関)の2022年の調査によると、中南米やアフリカなどの途上国の多くは、人口構成比率に見合った女性管理職比率になっており、ランキングの上位を占めている。次いでジェンダーギャップの解消に真摯に取り組んでいる欧米諸国が中位に多い。女性管理職 (注1) 比率が27.50%と欧米の中で最下位のイタリアに比べても、日本はその半分程度の13.53%に過ぎず、世界188カ国・地域中175位と極端に低く、近隣の台湾・中国・韓国や北朝鮮を下回っており、シリア・イエメン・アフガニスタンなど紛争中の国々と同じ世界最下位グループに先進国の中で唯一入っている。この女性管理職の極端な低さも21世紀の民主主義国家としては異様に見られ、評価が悪い原因になっている。(Fig.7

注1:「管理職」は, 国際標準職業分類2008年改訂版(ISCO-08)による大分類の「区分1」に相当する者。

Fig.7 世界188カ国・地域の女性管理職比率国別ランキング (2022年)

出典:ILO、Global Note

また日本は男女の賃金格差も大きく、OECD加盟国の中でワースト2位で、男女の賃金格差は26.6%。ちなみにOECDの平均は15.3%。欧州主要国の中では男女賃金格差が大きく、社会問題や訴訟騒ぎになっている英国でさえ17.4%なので、国際的にみても日本の男女賃金格差がいかに大きいかがわかる。(Fig.8)

Fig.8 男女賃金格差の国際比較

出典: OECD data.oecd.org  OECD加盟38カ国のうちコロンビアとコスタリカはデータが無いため除外。

日本に比べればまだ男女賃金格差の小さい上記の英国では、バーミンガム市が女性職員に対する差別的男女賃金格差で訴えられた裁判の最高裁で敗訴し、過去に遡って補償金支払いを命じられたことが原因の一つとなって市は2023年に財政破綻した。現在同市のガバナンス・財政管理・人事は中央政府が管理している。たとえ市財政を破綻させてでも、間違っていたことは改め、人権は守るというのが英国民の選択であった。

日本にも「ジェンダーギャップ」が存在し、改善の必要があるという点においては異論のある日本人は少ないと思う。しかし日本のジェンダーギャップの大きさとその深刻度という点では、日本と日本以外の国際社会との間には大きな「認識のギャップ」があるように感じる。

戸田洋正 ESG-IREC招へい教授/Japan Core Competence Management Ltd代表

References

・Employee Retirement Income Security Act (ERISA), U.S. DEPARTMENT OF LABOR
・ERISA PLANS AND ESG INCORPORATION, UNEP FI 22 May 2018
・「米国の企業年金プランによるESG投資を巡る議論」野村サステナビリティクォータリー2021年春号、野村資本市場研究所
・7. d Paris Agreement, Paris, 12 December 2015, United Nations Treaty Collection
・Fighting a Fossil Fuels Boycott, Fiscal Notes May 2023 Comptroller. Texas. Gov.
・’Governor Ron DeSantis Signs Legislation to Protect Floridians’ Financial Future & Economic Liberty’, 3 May 2023, Reuters
・「衆議院議員総選挙・最高裁判所裁判官国民審査 結果調」、総務省自治行政局選挙部、令和3年10月31日執行 届出政党別男女別新前元別候補者数、
・同上、平成11年から令和3年までの各「結果調」
・IPU (Inter-Parliamentary Union) Global Note
・ILOSTAT, Statistics on Women, ILO
・Reporting Gender Pay Gaps in OECD Countries、2022

コラム・インサイト

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