ESGインテグレーションを通じた企業のビジネスの成功と地球や人類の課題解決との両立・好循環で、持続可能な未来をつくる。
ESGとは
概要
ESGとは、「環境(Environment)」「社会(Social)」「ガバナンス(Governance)」の頭文字を取ってつくられた言葉です。近年では、企業がチャリティではなく、あくまでもビジネスの本業と責任ある企業経営を通じた経済的リターンの最大化と持続可能な未来に向けた社会・環境課題などの解決との両立を進めるための「ESG経営」や「ESG投資」などが注目されています。では、なぜいまESGなのか。それは、私たちがいま、世界の行く末を左右する大きな歴史の転換点にあり、ビジネスがよりよい未来を築く切り札の一つになるからです。
なかなか実感はしづらいのですが、現代に生きる私たち人間の活動の爆発的な拡大はすでに地球に劇的な負荷を及ぼし、例えばそれが気候変動などににつながってきています。私たちの気づかないところで生態系は確実に変化をし、生物多様性は劇的な脅威にさらされています。今日、ことあるごとに「持続可能性」が声高に説かれる最大の理由は、私たちが日々、当たり前のように続けてきた行動を大きく転換、変革していかない限り、地球はパンクをし、人類の未来が確実に「持続不能」となるからにほかなりません。
ですが、希望はあります。なぜなら、私たちがいま動くなら、いまから動きだすなら、破局は阻止できる。それがSDGsに込められた最も重要なメッセージの一つです。国連で合意されたSDGsは世界を持続可能にするための17の目標と169のターゲットですが、2030年までに私たちがその達成に向けて必要な「変革」を進めることができるならば、私たちは「貧困を終わらせることに成功する最初の世代になり得る。そして、同様に、地球を救う機会を持つ最後の世代になるかもしれない」とSDGsが盛り込まれた国連文書「2030年アジェンダ」(2015年)は強調します。
ESGは、企業がSDGsの達成と歩調を合わせてビジネス活動をしていくときのキーワードです。なぜなら、企業が本業のなかにESGの要素をインテグレートする(組み込む)プロセスそのものがSDGsの求める変革と大きく軌を一にするものになるからです。また、企業がビジネス展開をするときに、どうしたら経済的なリターンを最大化しつつ、同時に地球環境や人類社会の課題解決を実現するのか、このパズルを考えるときのキーワードもESGです。というのも、社会貢献でもチャリティでもなく、あくまでも営利を追求する企業だからこそ、ESG要素の取り込みをきっかけに、これから先、まさにビジネスセンスに富んだ創意工夫やイノベーションを駆使し、SDGsで描かれた未来図絵を実現するプロセスのなかで新しい市場シェア、さらには新しい市場自体までも獲得するようなダイナミックな活動ができるからにほかなりません。
ネットゼロ社会の実現、生物多様性の保全、食料の増産やロスの削減、持続可能・循環型経済への転換、富の再配分と格差是正、あらゆる差別や人権侵害の排除など、これらの実現はどれも決して容易ではないかもしれません。ですが、私たちにはもはや課題を先送りできる時間的な余裕はありません。SDGsを通じてこれからのあるべき世界の共通の目標が設定され、新型コロナ禍も経て、世界が「新しいノーマル(日常・当たり前)」を目指す方向へと舵を切ったいまこそ、「ESGインテグレーション」を進める企業のビジネスの成功が、地球や人類を壊滅の危機から救うのだと言っても過言ではありません。
ESGステークホルダーとは
ESGに関係するステークホルダー(利害関係主体)は多岐にわたっています。政府や国際機関など公的な主体も含まれますが、企業に関しては、大手企業のみならず、協働する中小企業やベンチャー企業・社会起業家も、その一翼を担っています。また、ESGを推進する企業の従業員やサプライチェーンのサプライヤー、さらには、消費者・顧客、活動を資金面から後押しする機関投資家・個人投資家・ベンチャーキャピタルや、マスコミ、市民社会、NGOや評価機関も重要なESGステークホルダーです。言い換えれば、この世の中でステークホルダーでない人はおらず、あなたや私も当事者になっていることがわかります。
地球規模の課題や人類の未来を左右する政策課題を議論したり、グローバルなレベルでのガバナンス規範や制度を構築していくプロセスではもっぱら官のセクター、つまり、政府や国際機関が政府間のルールを交渉し、作っていく部分も多いことは事実です。ですが、グローバルな公共政策の形成プロセスは、もはや政府や国際機関の占有物ではありません。むしろ、このプロセスのなかで官民の主体が共に「ESGステークホルダー」同士となり、アイデアを出し合い、さらに連携してルールの形成と実践をしていくことがこれからのESGを通じた新しい未来社会の構築のスタイルになります。こう考えると、ESGへの取組は、もはや企業も個社や単体で考えるのではなく、「ESGバリューチェーン」ないし「ESGエコシステム」として活動していくことも有益です。やはり、いまやESGに無関係な組織や団体、人々はない、とも言えるのです。
広義の「ESGインテグレーションモデル」とは
現在、すでに多様なESGステークホルダーが協働しているものの、課題も顕在化しています。たとえば、世界で用いられている企業のESG成果を評価するスコアリングのシステムは乱立し、欧米由来のものが多いこともあって、ESGやSDGsが唱えられる以前から日本で続けられていたグッドプラクティスや日本の風土や独自の企業文化などに基づく健全なESG取組が必ずしも公正な評価を得られるようにはなっていないケースが見られます。また、時として既存のESG評価項目がネガティブチェック項目としてのみ働き、本業ビジネスの好ましい成長を阻害する要因となる危険性もあります。私たちは、ESGのスコアリングの分野では、よりプロアクティブに、ルール・メーキングのなかで存在感を示し、より公正で包摂的な企業価値の見定め方を提起していく必要があります。
こうした状況を踏まえて、「ESG経営」や「ESG投資」に関するこれまでの議論を越え、国家や国際機関がグローバルな政治交渉を通じてガバナンス規範や政策ツールに関する合意形成をしていく国際公共政策プロセスとも緊密に連動しつつ、企業が本業ビジネスでの利益拡大とさまざまな社会的課題、それも地球規模や人類単位のものまでも視野にいれた社会的課題の解決との両立が実現するような道筋を積極的に探求することで、SDGsが目標とする真に持続可能な世界への変革を促すような広義の「ESGインテグレーション」という概念が重要になってきます。
日本におけるESGは始まったばかりです。大阪大学大学院国際公共政策研究科に設置されたESGインテグレーション研究教育センターでは、これからの時代を見据え、ビジネス実践の知見とグローバルな公共政策分析とを合体させ、ESGを通じて企業・ビジネスの利益の最大化と地球や人類社会の課題解決との好循環とを可能とするような広い意味での「ESGインテグレーション」のあり方について理論と実践の両面からの研究・教育を進めていきます。そのなかで、多様なESGステークホルダーによる議論を加速化し、ESGインテグレーションを進める企業やステークホルダーと連携し、よりよい未来への提言や実践のためのプロジェクトなども行ってまいります。