The Role of ESG in Municipal Management:
The Case of Hamamatsu City as an Intercultural City

自治体経営におけるESGの重要性ー多文化共生都市・浜松の事例からー

2025年5月21日

1. はじめに-制度の概要と背景

浜松市は2018年6月に「SDGs未来都市」として選定され、2019年9月にはVoluntary Local Review(VLR)「浜松市持続可能な開発目標(SDGs)レポート2019-市民協働で築く『未来へかがやく創造都市・浜松』」を作成・公表し、当時の市長である鈴木康友・現静岡県知事がニューヨーク国連本部で開催されたハイレベル政治フォーラム(HLPF)において取り組み紹介を行うなどSDGs達成に向けた取り組みを積極的に展開してきた。その中でも注目に値するのが、浜松市のSDGs未来都市選定の大きな理由となった「多文化共生」への取り組みである 。本稿では浜松市のSDGs/ESG推進における大きな特徴である「多文化共生」に焦点を当てながら、自治体経営におけるESGの重要性について考察を行う。

画像1:SDGs未来都市・浜松ロゴ

画像2:浜松市持続可能な開発目標(SDGs)レポート2019

2. 浜松市における多文化共生の歩み

浜松市はスズキ、本田技研工業、ヤマハ、河合楽器製作所、浜松ホトニクスなどの国際企業が集積しており、旺盛な労働需要を有する自治体として知られる。また日本で最も多いブラジル人住民が居住する都市としても知られ、3万人を超える外国人住民が暮らしている(2025年4月1日現在)。

かつて日本全体で人手不足が深刻化する中で1990年に施行された出入国管理及び難民認定法が改正され、多くの南米日系人が「永住者」や「定住者」などの長期滞在が可能な身分系在留資格を取得できることとなり、浜松市にも移住が進むこととなった。いわゆる「デカセギ」として浜松・日本での一定期間の仕事を終えてから母国へ戻る者もいたが、子どもの教育をはじめとする家庭の事情もふまえ、定住・永住を選択する方々も少なくなく、浜松市は多数の外国人住民が抱える課題と向き合うこととなった。

そうした中で、浜松市は2001年度に「浜松市世界都市化ビジョン」を策定し、「共生」「交流・協力」「連携」「発信」の各分野で取り組みを展開してきた。2007年4月の浜松市の政令指定都市への移行といった環境変化の中でも、多文化共生社会の実現に向けた歩みは着実に進み、2008年には施策を「共生」「交流・協力」「発信」の3つに整理するかたちでビジョン改定を行い、「だれもが住みやすい共生社会づくり」、「世界都市の礎となる人材の育成」、「市民主役の国際交流の推進」などをテーマとした施策が展開された。

2011年からは住民基本台帳システムと学齢簿を連動させること等により、就学状況を継続的に把握することで不就学を生まない「浜松モデル」として広く知られる「外国人の子どもの不就学ゼロ作戦事業」が開始され、2012年度には多文化共生施策の指針となる「浜松市多文化共生都市ビジョン」(2013年度-2017年度)が策定された。

3.浜松市が描く将来の理想の姿とバックキャスティング

 浜松市は都市経営における最上位計画である「総合計画」を2014年に策定し、2015-2044年度の30年間の未来の理想像となる「基本構想」を描き、バックキャスティングによって10年ごとの総合的な政策を定める「基本計画」と、各年度の「実施計画」を定めながら、自治体経営を行う方針を取っている。

画像3:浜松市総合計画より引用

上述の「浜松市多文化共生都市ビジョン」についても、2013年度-2017年度の5年間の取り組みを継承発展させるかたちで、2018年度から「第二次浜松市多文化共生都市ビジョン」(2018年度-2022年度)へと移行し、「まちづくりの重要なパートナー」として外国人住民が活躍できる地域づくりに取り組んだ。そして2023年からはこれまでの歩みを継承しつつ、さらに発展させるための「第三次浜松市多文化共生都市ビジョン」(2023年度-2027年度)を策定し、課題解決型の多文化共生だけではなく、価値創造型の多文化共生を目指した自治体経営を行っている。

注目に値するのは、浜松市の「基本計画(2025~2034年度)」では外国人市民が安心して生活し、きめ細かな教育が提供され、それぞれの能力を発揮できる魅力ある国際都市を目指すために、地域日本語教育推進関連の取り組みを「都市経営・地方自治」における重要な取り組みとして位置付けている点である。また、こうした基本計画について外国人市民に情報が届きやすいように、「浜松市総合計画基本計画(日本語を母語としない方向け)」「浜松市総合計画基本計画(英語版)」「浜松市総合計画基本計画(ポルトガル語版)」も作成し、浜松市ホームページ上で公開されている[2]。

4.浜松市の多文化共生社会推進に向けたパートナーシップ

浜松市の30年以上にわたる多文化共生社会推進の取り組みの中で注目に値するのが国内外の自治体とのパートナーシップである。浜松市は南米日系人等の外国人住民が多数居住する自治体との連携による「外国人集住都市会議」設立に貢献し、2001年10月19日に「浜松宣言及び提言」が採択されるなど、外国人施策に関する国への提言等の働きかけを行う上でのリーダーシップを発揮してきた。また浜松市は日本の自治体で唯一、自治体の世界最大の連合組織である都市・自治体連合(United Cities and Local Governments (UCLG))のメンバーでもあり、会員都市との都市間連携を通じて、世界各国の先進的な取り組みを参考にしながら自治体経営を行っている。 

さらに浜松市は2017年10月にアジアの都市として初めて、欧州協議会が主導するIntercultural Cities Programme(ICC)に加盟した。ICCは外国人住民など多様な背景を有する住民の多様性を、問題ではなく、都市の活力や成長の源泉としてとらえる都市政策であり、世界140以上の都市が加盟している。浜松市が策定した「第3次浜松市多文化共生都市ビジョン(2023-2027年度)」では「相互の理解と尊重のもと、創造と成長を続ける、ともに築く多文化共生都市」を掲げ、多様性を生かした文化・創造活動や、外国人材活躍宣言事業所認定事業などの様々な取り組みを進め、多様性を活力として発展する多文化共生都市としての歩みを進めている。

画像4:インターカルチュラルシティ・シンポジウム2024浜松(2024年10月10日~11日)で表明された「Hamamatsu Declaration」

世界の各国都市において移民・難民に対する排外感情の高まりは深刻な社会課題となっており、日本においても在留外国人の存在感が高まる中で、排外主義的な発言やヘイトとどう向き合うかの重要性が増している。こうした解決が困難な社会課題について、問題意識を同じくする都市・自治体がパートナーシップを深めながら解決策を共有・共創することは極めて重要と言えよう。そうした取り組みは外国人住民だけのためではなく、国内外における浜松市のプレゼンスを高めることにつながり、ESGを重視する企業や人材を惹きつけることにつながる有益な自治体経営戦略と言える。

世界的に多文化共生への逆風が吹く中でも、ICCやUCLG等とのパートナーシップを深め、外国人市民との共創を通じた成長と発展を目指す多文化共生都市・浜松の歩みがこれからも発展していくことを願ってやまない。

佐伯康孝 ESG-IREC招へい准教授/静岡文化芸術大学准教授


本研究はJSPS科研費25K05981, 24H00145, 21K18130の助成を受けたものである。

[1] 選考に際しては経済面の「エネルギー」、社会面の「多文化共生」、環境面の「森林」が特徴的な取り組みとして高い評価を得た。

[2] https://www.city.hamamatsu.shizuoka.jp/kikaku/totalplan2025/plan/index.html <最終アクセス2025年5月13日>

コラム・インサイト

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